介護と仕事の両立日誌

障がいを持つ妻と子と共に生きる日々

遺言書作成のススメ~Vol.4~

2025-09-05 19:08:32
2025-09-05 19:12:34
目次

相続人同士が疎遠である、または不仲である

 私が「遺言書を作成しておいたほうが良い」と考えるケースについて、連載第四回目は「相続人同士が疎遠である、または不仲である」ケースです。この場合に遺言書を作成しておいたほうが良いことは、なんとなく想像がつくと思われますが、その理由について具体的に説明していきたいと思います。

「相続人同士が不仲である」ケースについて

 具体的な事例で考えたほうが分かりやすいため、今回は「相続人同士が不仲である」ケースの例を作成しました。亡くなったAさんには既に配偶者はおらず、息子が3人いますが、兄弟仲は良くなく確執があります。Aさんの遺産は預金900万円のみです。長男のBさんはAさんの生前にAさんの面倒を一番よく見ていたことから、自分が一番遺産を多く取得すべきだと主張しています。二男のCさんは、兄弟平等に相続すべきだと主張しています。三男のDさんは、遺産なんていらないから関わってこないでくれと主張しています。

「遺言書を作成していない場合」

 このようなケースで遺言書を作成していない場合はどうなるでしょうか。法定相続人は長男Bさんと二男Cさんと三男Dさんの3人です。法定相続分については、子が複数人いる場合は等分しますので、3人ともそれぞれ300万円ずつです。

 この場合に想定し得る問題点は「遺産分割協議が成立しにくい」という点につきます。しかし、意外かもしれませんが、ここで一番の問題点は「BさんとCさんの相続分割合についての意見が異なっていること」ではなく、「Dさんが関わりたくないと思っていること」です。BさんとCさんの意見は違いますが、遺産を相続したいと思っている点については共通しています。こういうケースでは、どちらかが譲歩したり折衷案を出すことで、協議がまとまる余地があります。しかし、Dさんのように、関わりたくない人を関わらせることは難しいことです。遺産分割協議は相続人全員で行わなければならず、一般的に遺産分割協議書には実印を押し印鑑証明書を添付する必要があります。Dさんのような方は、「遺産分割協議など参加したくない。協議書に実印も押したくない。印鑑証明書を渡すなんてもってのほかだ。」と思っていることが少なくありません。家庭裁判所で相続放棄の手続きをすればDさんは初めから相続人でなかったことになるのですが、手間がかかるため、Dさんがその手続きをしてくれるとも限りません。こうなると、相続人同士だけで遺産分割協議を成立させることは難しいでしょう。

 相続人同士の話し合いがまとまらない場合は家庭裁判所で遺産分割調停を行います。調停でも合意が得られなかった場合は遺産分割審判の手続きを行い、最終的には裁判所が遺産分割の方法について審判を言い渡します。遺産分割調停や遺産分割審判は手間も期間もかかるため、相続人にとって労力や負担がかかることになります。

 それなら遺産分割協議などせずに法定相続分で相続することにして、財産をいらないと言っているDさんは置いといて、BさんとCさんは法定相続分の300万円ずつ預金を払い戻せばいいのではないかと考える方もいるかもしれません。しかし、これもできません。平成28年に最高裁判所が、「預貯金債権が遺産分割の対象に含まれる」との判断をしたことにより、被相続人の相続預貯金は法定相続分相当額であっても法定相続人の1人から払戻しすることはできず、相続預貯金の払戻請求を行うことができるのは原則として相続人全員の合意がある場合(遺産分割協議書を提出する場合など)や遺言書がある場合などに限られることとなりました。

「遺言書を作成している場合」

 それでは遺言書を作成している場合はどうでしょうか。

 「遺言書作成のススメ~vol.1~」の「遺言書を作成している場合」の記事でもご紹介していますが、遺言書があれば遺産分割協議を行う必要はありませんし、基本的には遺言書に記載したとおりに相続させることができます。面倒をよく見てくれた長男Bさんに遺産を多く残すことも、兄弟平等に遺産を分けることも可能です。遺言により預金を相続することとなった相続人(これを「受益相続人」といいます)だけで自身が取得する額の払戻手続きを行うこともできます。

 しかし、配偶者、子、直系尊属には遺留分(法律で定められた最低限の遺産取得分のこと)がありますので注意が必要です。例えば、子のみが相続人である場合の各人の遺留分は法定相続分に2分の1を乗じた額ですので、事例のBさん、Cさん、Dさんの遺留分額は各150万円です。そのため、仮にAさんが遺言書を作成していて「全財産を長男Bに相続させる」旨の記載をしていた場合でも、CさんやDさんから遺留分相当の金銭(150万円)を支払えという請求(これを「遺留分侵害額請求」といいます)がされた場合には支払いが必要になることがあります。

 自身の子らが疎遠であったり不仲であったりすることは残念なことかもしれません。遺言書の付言事項(遺言書に書かれる遺言者からのメッセージのことです。法的な拘束力はありません。)に「兄弟仲良く」と記載しても、仲が良くなるとは限りません。しかし、遺言書を作成することにより、「相続手続きが円滑に行えるようになる」ことは間違いありません。それだけでも、遺言書を作成することに意味があると私は考えます。

 以上が、私が「相続人同士が疎遠である、または不仲である」ケースは遺言書を作成しておいたほうが良いと考える理由です。遺言書を作成するかどうか悩まれている方がいらっしゃいましたら参考にしていただけると幸いです。

この記事を書いた人

なかむらしんご