介護と仕事の両立日誌

障がいを持つ妻と子と共に生きる日々

遺言書作成のススメ~vol.1~

2025-08-25 21:41:22
2025-08-25 21:52:30
目次

モデルケース① 「夫婦の間に子がいない」

 私が「遺言書を作成しておいたほうが良い」と考えるケースについて、連載したいと思います。

 連載第一回目は「夫婦の間に子がいない」ケースです。なぜ夫婦の間に子がいない場合は遺言書を作成しておいたほうが良いのかを理解するために、まずは遺言書を作成していない場合の相続について簡単にご説明いたします。

「遺言書を作成していない場合の相続について」

遺言を作成していない場合、亡くなった方の財産は法律で定められた相続人(これを「法定相続人」といいます)に相続されます。そして、相続人が複数人いる場合、遺産は法律で定められた持分割合(これを「法定相続分」といいます)でその全員の共有財産となります。さらに、相続が発生した後、相続人全員でどの財産を誰が相続するのかを決めること(これを「遺産分割協議」といいます)により、相続開始時にさかのぼって決めたとおりに財産が分けられます。

それでは、誰が法定相続人になるのでしょうか。これは、亡くなった方の家族関係によって異なります。そのパターンは主に3つあり、①配偶者と子(法定相続分は配偶者が2分の1、子が2分の1)、②配偶者と直系尊属(法定相続分は配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1)、③配偶者と兄弟姉妹(法定相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1)です。まず、配偶者がいる場合、配偶者は原則として常に相続人となります。そして、配偶者と共に相続人になる人として、第一に子がいれば子が相続人となり、第二に子がいない場合は直系尊属が相続人となり、第三に子も直系尊属もいない場合は兄弟姉妹が相続人となります。なお、直系尊属とは父母や祖父母のことであり、複数人いる場合は親等の近い方のみが相続人となります(子がいなく、父母も祖父母もご存命の場合、父母が相続人になり、祖父母は相続人にならないということです)。

「夫婦の間に子がいない」ケースについて

今までのことを踏まえて、今回の「夫婦の間に子がいない」ケースについてお話します。なお、子がいたけれども先に亡くなってしまった場合等で孫がいるときは、代襲相続といって、孫が子の代わりに相続しますので、そのような場合は除きます。

具体的な事例で考えたほうが分かりやすいため、こんな事例を作ってみました。亡くなったのは千葉県在住のAさん(没年80歳)で、妻のBさん(78歳)と2人で暮らしていましたが、子はいませんでした。Aさんの父母や祖父母は既に亡くなっており、Aさんの兄弟姉妹には大阪府在住の兄のCさん(82歳)がいます。Aさんの遺産は自宅の土地建物(3,000万円相当)と預貯金(1,000万円)のみです。特別受益や寄与分等についてはないものとします。

「遺言書を作成していない場合」

このようなケースで遺言書を作成していない場合はどうなるでしょうか。法定相続人は妻Bさんと兄Cさんの2人です。法定相続分については、Aさんの遺産価値の合計が4,000万円ですので、妻Bさんが3,000万円、兄Cさんが1,000万円です。

この場合に想定し得る問題点が2つあります。

1つ目は、「遺産分割協議を行うのに大変な労力がかかる」ということです。本件の相続人の方々はご高齢であり、それぞれ住んでいる場所も離れています。今回の事例でなくても配偶者と兄弟姉妹が相続人となるケースでは同様のケースはめずらしくありません。配偶者と兄弟姉妹は疎遠であることも多く、遠くに住んでいるとなおさら集まって話し合うことは大変です。また、遺産分割協議書を書面で作成する場合(不動産の名義変更や銀行の手続きでは原則書面が必要です)、遠方だと書面を郵送でやりとりするのにも手間がかかります。

そして2つ目は、「遺産分割協議を行う際に話が上手くまとまらない可能性がある」ということです。例えば、法定相続分どおりに分割する場合、自宅だけで遺産の4分の3の価格になってしまうため、妻Bさんは自宅全部の取得を希望すると預貯金を全く相続できなくなります。もちろん相続人全員の合意があれば法定相続分どおりに分割する必要はありませんが、兄Cさんが合意してくれるとは限りません。自宅を売ってお金を分ける方法や配偶者居住権という制度を使って妻Bさんの生活の保障を図ることも考えられますが、いずれにしろ、話が上手くまとまらない場合は遺産分割調停や遺産分割審判といった裁判所が介入した手続きをすることになり、相続人の労力や負担も増すことになります。

「遺言書を作成している場合」

それでは、遺言書を作成している場合はどうでしょうか。

もしAさんが遺言書を作成していて、「全財産を妻Bに相続させる」旨の記載をしていれば、遺産分割協議を行うことなく妻Bさんが自宅も預貯金も全て相続することができます。兄弟姉妹には遺留分(法律で定められた最低限の遺産取得分のこと)がありませんので、兄Cさんが遺言書の内容に納得していなくても妻Bさんに全て相続させることが可能です。なお、法定相続人が配偶者と直系尊属の場合など、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分がありますので、この場合に遺留分相当の金銭を支払えという請求(これを「遺留分侵害額請求」といいます)がされた場合には支払いが必要になることがあります。

また、Aさんが妻Bさんの生活の保障を考慮しつつ、兄Cさんにもある程度の財産を相続させたい場合などは、例えば「自宅と預貯金800万円を妻Bに相続させ、預貯金200万円を兄Cに相続させる」旨の遺言を作成すればよいでしょう(実際には不動産の所在地番家屋番号や銀行の銀行名支店名口座番号などを具体的に記載して財産を特定します)。このような遺言書を作成することにより、妻Bさんへの感謝の気持ちだけでなく兄Cさんへの感謝の気持ちも伝えることができるのではないでしょうか。

このように、遺言書を作成すると、「相続手続きが円滑に行える」とともに、「遺言書を書く方の想いを伝えることができる」と私は考えます。

以上が、私が「夫婦の間に子がいない」ケースは遺言書を作成しておいたほうが良いと考える理由です。遺言書を作成するかどうか悩まれている方がいらっしゃいましたら参考にしていただけると幸いです。

この記事を書いた人

なかむらしんご