介護と仕事の両立日誌

障がいを持つ妻と子と共に生きる日々

遺言書作成のススメ~Vol.2~

2025-08-28 23:27:32
2025-08-29 00:05:32
目次

モデルケース②  「現在の配偶者以外との間に子がいる」

 私が「遺言書を作成しておいたほうが良い」と考えるケースについて、連載第二回目は「現在の配偶者以外との間に子がいる」ケースです。例えば、婚姻歴が複数回あり前婚の際の子がいる場合ですとか、婚姻関係にない方との間に子がいる場合です。なぜ現在の配偶者以外との間に子がいる場合は遺言書を作成しておいたほうが良いのかを理解するために、まずは配偶者と子の相続権について簡単にご説明いたします。

「配偶者と子の相続権について」

 「遺言書作成のススメ~vol.1~」の「遺言書を作成していない場合の相続について」の記事でご紹介していますが、亡くなった方に配偶者と子がいる場合の法定相続人は「配偶者と子」で、法定相続分は「配偶者が2分の1、子が2分の1」です(「遺言書作成のススメ~vol.1~」をご覧になっていない方は、よろしければ是非ご一読いただけると嬉しく思います)。

 それでは、ここでいう「配偶者」及び「子」の範囲はどこまで及ぶのでしょうか。

 「配偶者」とは、「亡くなった時点で婚姻関係にある配偶者」を指します。「既に離婚した元配偶者」には相続権はありません。また、「内縁関係の相手方(内縁の妻もしくは内縁の夫)」にも相続権はありません(内縁関係の相手方については別の回で詳しくご説明する予定ですので、今回は詳しい説明は省略いたします)。

 「子」とは、「実子」及び「養子」を指します。「実子」とは、「法律上婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子(これを「嫡出子」といいます)」と「法律上婚姻関係にない男女の間に生まれた子(これを「非嫡出子」といいます)」の両方を含みます。両親が離婚したとしても子の相続権はなくなりません。ただし、父親と非嫡出子の法律上の親子関係は父親が子を認知することにより生じますので、父親から認知されていない非嫡出子はそのままでは父親が亡くなった場合の相続権がありません。生前に、もしくは遺言で認知されるか、死後認知が成立すれば相続権が発生します。また、「配偶者の連れ子」や「息子の妻や娘の夫(いわゆる義理の娘や義理の息子)」で養子縁組をしていない場合も相続権がありません。養子縁組をしている場合は「養子」ですので相続権があります。

「現在の配偶者以外との間に子がいる」ケースについて

 今までのことを踏まえて、今回の「現在の配偶者以外との間に子がいる」ケースについてお話します。

 今回も具体的な事例で考えていきましょう。A男さんはB美さんと婚姻し、2人の間にC子さんが生まれました。ところが2人は離婚することになり、C子さんはB美さんと一緒に暮らすことになりました。その後、A男さんはD美さんと再婚することになりました。A男さんとD美さんは一緒に暮らしていましたが子はいません。その後、A男さんは亡くなりました。A男さんの遺産は自宅の土地建物(3,000万円相当)と預貯金(2,000万円)のみです。相続人の中に未成年者はなく、特別受益や寄与分等についてはないものとします。

「遺言書を作成していない場合」

 このようなケースで遺言書を作成していない場合はどうなるでしょうか。法定相続人は「亡くなった時点での配偶者であるD美さん」と「前配偶者との間の子であるC子さん」です。法定相続分については、A男さんの遺産価値の合計が5,000万円ですので、D美さんが2,500万円、C子さんが2,500万円です。

 この場合に想定し得る問題点が3つあります。

 1つ目は、「争いになる可能性が高い」ということです。「現在の配偶者」と「前配偶者との間の子」は血縁関係がありませんし、疎遠であることも多いため、相続に関する争いが起こる可能性が高いといえます。さらに、前婚の破綻の原因に後婚の配偶者が関与している場合などは特に感情的になって揉めてしまうことが予想されます。事例のケースで争いがある場合、D美さんが居住するために自宅全部(3,000万円相当)の取得を希望したとしても、D美さんの法定相続分(2,500万円)を超えてしまうため、C子さんの合意を得ることは難しいでしょう。

 2つ目は、「相続人同士が疎遠な場合、連絡をとるためのハードルが高い」ということです。事例のケースの場合、A男さんが亡くなったことは一緒に暮らしているD美さんが一番に把握すると考えられますので、D美さんからC子さんに連絡をする必要があります。前述のとおり、「現在の配偶者」と「前配偶者との間の子」は疎遠であることが多いため、連絡をとろうと思ったとき、連絡先を知っている親族等がいればその方に協力してもらう方法が考えられますが、そういう方がいない場合は住所を調べる必要があります。実務的には「戸籍の附票」を取得する等の方法で調べることとなりますが、そのことを知らない方も多いでしょう。そして住所を調べたら、相続が発生した旨や相続手続きに協力をしてほしい旨等をお知らせするために手紙を送る必要があります。さらに手紙が届いても相手方が快く協力してくれるとは限りません。このようなやりとりをするのは相続人(D美さん)にとってかなり負担の大きいことだと思います。

 3つ目は、事例のC子さんから見た問題点ですが、「亡くなった方の財産の詳細が分からない」ということです。亡くなった方と一緒に暮らしていない場合、亡くなった方の財産がどのくらいあるのかが分からないことが多いでしょう。財産を隠すことはやってはいけませんが、亡くなった方と一緒に暮らしている相続人(D美さん)が財産を正直に開示してくれるとは限りませんし、財産が分からなければ不当に少ない財産を相続させられるかもしれません。相続人(C子さん)が自身で相続財産を調査するのもハードルが高いと思われます。

「遺言書を作成している場合」

 それでは遺言書を作成している場合はどうでしょうか。

 1つ目の問題点についてですが、「遺言書作成のススメ~vol.1~」の「遺言書を作成している場合」の記事でもご紹介していますが、遺言書があれば遺産分割協議を行う必要はありませんし、基本的には遺言書に記載したとおりに相続させることができます。しかし、配偶者、子、直系尊属には遺留分(法律で定められた最低限の遺産取得分のこと)がありますので注意が必要です。

 例えば、配偶者と子が相続人である場合の各人の遺留分は法定相続分に2分の1を乗じた額ですので、事例のD美さんの遺留分額は1,250万円で、C子さんの遺留分額は1,250万円です。そのため、仮にA男さんが遺言書を作成していて「全財産をD美に相続させる」旨の記載をしていた場合でも、C子さんから遺留分相当の金銭(1,250万円)を支払えという請求(これを「遺留分侵害額請求」といいます)がされた場合には支払いが必要になることがあります。

 この場合に、どのような遺言書を作成するかは、各相続人の状況(心身の状態や生活の状況)等を踏まえて遺言者(A男さん)の意思で決めることになるでしょう。遺留分侵害額請求は権利であり、権利を行使するかどうかは遺留分を侵害された方(C子さん)の判断によります。もし遺留分を侵害するような遺言書を作成した場合に、遺留分侵害額請求がされることが確実に予想されるときは、例えば「自宅と預貯金750万円をD美に相続させ、預貯金1250万円をC子に相続させる」など、遺留分を侵害しない内容の遺言を作成することが考えられます(実際には不動産の所在地番家屋番号や銀行の銀行名支店名口座番号などを具体的に記載して財産を特定します)。また、例えば、どうしても妻であるD美さんの生活の保障を優先する必要があるときなどは、「全財産をD美に相続させる」旨の遺言を作成し、付言事項(遺言書に書かれる遺言者からのメッセージのことです。法的な拘束力はありません。)にどうしてD美さんに多くの財産を残す必要があるのかを記載することも考えられます。ただし、この場合でもC子さんは遺留分侵害額請求をする権利があります。他にも配偶者居住権という制度を利用することも考えられますが、配偶者居住権については別の回で詳しくご説明する予定ですので、今回は詳しい説明は省略いたします。

 遺留分を侵害している遺言内容の場合は、完全に争いを無くすことはできませんが、遺言書を作成し、遺言書を書く方の想いを伝えることは決して無駄にはならないと私は思っております。

 2つ目の問題点についてですが、遺言書が作成されていれば、D美さんはC子さんに連絡をとることなく遺言書に記載してあるとおりに相続手続きをすることができます。ただし、遺言書中にC子さんに相続させる財産がある場合、C子さんもA男さんが亡くなった事実と遺言書の内容を把握する必要があります。この場合は、遺言で信頼できる方を遺言執行者に指定することをお勧めします。遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、遺言の執行に必要な一切の権利義務を有していますので、相続人に対して遺言の内容を伝える義務があります。また、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、遺言者が遺言書の保管申請をする際に指定者通知を希望すると、法務局において遺言者の死亡の事実を確認できた時に遺言者が指定した方に遺言書が保管されている旨が通知されますので、遺言書で財産を相続させることとした方を指定しておけば、その方々に法務局から通知がされます。

 3つ目の問題点についてですが、遺言書に財産を漏れなく記載しておけば、C子さんが自身で相続財産調査をすることなく財産の把握ができます。

 以上のようなメリットがありますので、私は「現在の配偶者以外との間に子がいる」ケースは遺言書を作成しておいたほうが良いと考えております。遺言書を作成するかどうか悩まれている方がいらっしゃいましたら参考にしていただけると幸いです。

この記事を書いた人

なかむらしんご