介護と仕事の両立日誌

障がいを持つ妻と子と共に生きる日々

遺言書作成のススメ~Vol.3~

2025-09-01 23:16:47
2025-09-01 23:59:10
目次

モデルケース③法定相続人以外に財産を残したい

 私が「遺言書を作成しておいたほうが良い」と考えるケースについて、連載第三回目は「法定相続人以外の方に財産を残したい」ケースです。誰が法定相続人になるのかについては、「遺言書作成のススメ~vol.1~」の「遺言書を作成していない場合の相続について」の記事でご紹介したとおり、亡くなった方の家族関係によって異なります。そのパターンは主に3つあり、①配偶者と子、②配偶者と直系尊属、③配偶者と兄弟姉妹です。まず、配偶者がいる場合、配偶者は原則として常に相続人となります。そして、配偶者と共に相続人になる人として、第一に子がいれば子が相続人となり、第二に子がいない場合は直系尊属が相続人となり、第三に子も直系尊属もいない場合は兄弟姉妹が相続人となります(「遺言書作成のススメ~vol.1~」をご覧になっていない方は、よろしければ是非ご一読いただけると嬉しく思います)。同記事に記載していますが、遺言書を作成していない場合、亡くなった方の財産は法定相続人に相続されますので、原則的には、法定相続人以外の方に財産を残すことができません。子がいるけれども孫や親や兄弟姉妹に財産を残したい場合や、親族関係も何もない第三者に財産を残したい場合は遺言書を作成しなければならないと分かると思います。しかし、法定相続人になると誤解して遺言書を作成していなかったけれども、実は法定相続人にならないなんてことがあると、取り返しがつきません。以下、勘違いされやすいケースについて説明いたします。

「内縁関係の相手方(内縁の妻もしくは内縁の夫)」

 内縁とは、婚姻の意思を持ちながら法律上の婚姻手続き(婚姻届の提出)を行なわずに、実質的には夫婦としての関係を持ち、共同生活を営んでいる男女の関係を指します。内縁関係の相手方を内縁の妻もしくは内縁の夫と言います。内縁関係には法律上の夫婦間の権利義務と同様の権利義務が認められる場面もありますが、内縁の夫(妻)が亡くなったとしても、内縁の妻(夫)は法定相続人にはなりません。内縁の夫(妻)に法定相続人が誰もいなければ被相続人(亡くなった方)と特別な関係を持っていた人(これを「特別縁故者」といいます)として相続財産を受け取れる可能性がありますが、家庭裁判所へ請求し相続財産の分与が相当であると認められることが必要です。

「父親から認知されていない非嫡出子」「配偶者の連れ子」「息子の妻や娘の夫(いわゆる義理の娘や義理の息子)」

 「遺言書作成のススメ~vol.2~」の「配偶者と子の相続権について」の記事でご紹介していますが、「父親から認知されていない非嫡出子」「配偶者の連れ子」「息子の妻や娘の夫(いわゆる義理の娘や義理の息子)」も法定相続人にはなりません。

 「非嫡出子」とは「法律上婚姻関係にない男女の間に生まれた子」のことですが、非嫡出子は父親から認知されていない場合、父親の相続については法定相続人にはなりません。認知されれば法定相続人になりますが、父親が生前に自らの意思で認知を行う場合、役所に認知届を提出する必要があります。単に父親が子や子の母に対して自分の子であると認めると宣言するだけでは法律上の認知の効果は発生しませんので、ご注意ください。

 「配偶者の連れ子」「息子の妻や娘の夫(いわゆる義理の娘や義理の息子)」は養子縁組をしていない場合、法定相続人にはなりません。例えば、配偶者の連れ子を幼少の頃から実の子のように育てていても、息子の妻(もしくは娘の夫)が義理の親である自分の介護を献身的にしてくれていても、養子縁組をしていなければ法定相続人にはなりません。なお、親族の場合、特別の寄与という制度があります。この制度は、被相続人に対して療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした親族は、相続の開始後、相続人に対し特別寄与者の寄与に応じた額の金銭の支払いを請求することができるという制度です。しかし、この制度は当事者間の協議が必要であり、協議が調わないときは、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求しなければなりませんので、実際には使いにくい面があるとされています。

 以上のようなケースや、他にも法定相続人でない方に財産を残したい場合は、遺言書を作成する必要があります。しかし、兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分(法律で定められた最低限の遺産取得分のこと)がありますので、遺留分を侵害している場合、その分の金銭を支払えという請求(これを「遺留分侵害額請求」といいます)がされたときには支払いが必要になることがあります。争いを避けたい場合など、場合によっては、法定相続人以外の方に残す財産を遺留分を侵害しない額にするなどの工夫をすることも考えられます。遺言書を作成するかどうか悩まれている方がいらっしゃいましたら参考にしていただけると幸いです。

この記事を書いた人

なかむらしんご