介護と仕事の両立日誌

障がいを持つ妻と子と共に生きる日々

遺言書作成のススメ~Vol.6~

2025-09-15 23:09:45
2025-09-15 23:19:06
目次

モデルケース⑥ 

「不動産(自宅の土地建物)が主な遺産である」

 私が「遺言書を作成しておいたほうが良い」と考えるケースについて、連載第六回目は「不動産(自宅の土地建物)が主な遺産である」ケースです。特にその不動産を換価せずに(売らずに)残したい場合は遺言書を作成しておいたほうが良いと考えられます。このことを理解するために、まずは遺産分割の4つの方法について簡単に説明いたします。

「遺産分割の4つの方法」について

 1つ目は「現物分割」です。これは、遺産をそのままの形で分割する方法です。例えば、預貯金は長男が、土地は長女が、家は二男が取得するように分配します。また、土地を分筆(1筆の土地を2筆以上に分けること)し、各相続人に分割して相続することも、現物分割に含まれます。

 2つ目は「換価分割」です。これは、遺産を売却して得た現金を相続人間で分配する方法です。例えば、土地や建物を売却し、その代金を相続人で分けます。

 3つ目は「代償分割」です。これは、特定の相続人が現物(例えば不動産)を取得し、その代わりに他の相続人に対して金銭を支払う方法です。

 4つ目は「共有」です。これは、遺産を相続人全員の共同で所有する方法です。例えば、土地を相続人全員の共有名義にするといった方法です。

 これら4つの方法は、どれか1つの方法で分割するだけでなく、複数の方法を併用して分割することもできます。

「不動産(自宅の土地建物)が主な遺産である」ケースについて

 今回も具体的な事例で考えていきましょう。亡くなったのはAさんで、妻のBさんと2人で暮らしていました。AさんにはBさんとの間に長男のCさんがいます。Bさんは、Aさん亡き後も、Aさんとの思い出のつまった家に住み続けたいと思っています。Aさんの遺産は自宅の土地建物(2,000万円相当)と預貯金(1,000万円)です。特別受益や寄与分等についてはないものとします。

「遺言書を作成していない場合」

 このようなケースで遺言書を作成していない場合はどうなるでしょうか。法定相続人は妻Bさんと長男Cさんの2人です。法定相続分については、Aさんの遺産価値の合計が3,000万円ですので妻Bさんが1,500万円、長男Cさんが1,500万円です。

 この場合に想定し得る問題点は、「不動産は分割しにくい」という点です。

 例えば、BさんもCさんも法定相続分を譲らない場合、自宅だけで遺産の3分の2の価格になってしまうため、自宅の土地建物をBさんが取得し、預貯金をCさんが取得するといった「現物分割」による方法は使えません。また、Bさんが自宅に住み続けたいと考えていることから「換価分割」による方法も使えません。Bさんが自宅の土地建物を単独で取得し、その代わりに金銭をCさんに支払う「代償分割」の方法が考えられますが、この方法はBさんに金銭を支払う資力がある場合しか使えません。自宅の土地建物をBさんとCさんの「共有」にする方法もありますが、自宅を使用する予定のないCさんが反対する可能性も高く、共有物の管理行為や変更・処分行為に共有者の合意が必要になるため、共有者間で意見が対立し、トラブルになるおそれもあります。もちろん相続人全員の合意があれば法定相続分どおりに分割する必要はありませんが、合意が得られるかは分かりません。

 以上のように不動産は分割しにくいため、不動産を特定の相続人に単独で相続させて、他の相続人に不動産の価値相当の現金を相続させることで調整するケースが多くなります。しかし、不動産が主な遺産であり、他の遺産に調整をするだけの現金や預金がない場合は遺産分割協議が上手くまとまらないおそれがあります。

「遺言書を作成している場合」

 それでは遺言書を作成している場合はどうでしょうか。

 「遺言書作成のススメ~vol.1~」の「遺言書を作成している場合」の記事でもご紹介していますが、遺言書があれば遺産分割協議を行う必要はありませんし、基本的には遺言書に記載したとおりに相続させることができます。

 遺言書を作成する場合、配偶者、子、直系尊属には遺留分(法律で定められた最低限の遺産取得分のこと)がありますので注意が必要です。例えば、配偶者及び子が相続人である場合の各人の遺留分は法定相続分に2分の1を乗じた額ですので、事例の妻Bさんの遺留分額は750万円、長男Cさんの遺留分額も750万円です。遺留分を侵害しない内容の遺言書を作成するか、遺留分を侵害してしまう場合はその理由を付言事項(遺言書に書かれる遺言者からのメッセージのことです。法的な拘束力はありません。)に記載することが望ましいでしょう。

 さらに、今回のようなケースでは配偶者居住権という制度を利用することが考えられます。この制度の説明は少し長くなってしまうため、次回ご説明いたします。

 以上が、私が「不動産(自宅の土地建物)が主な遺産である」ケースは遺言書を作成しておいたほうが良いと考える理由です。遺言書を作成するかどうか悩まれている方がいらっしゃいましたら参考にしていただけると幸いです。

この記事を書いた人

なかむらしんご